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伊藤さんと松下さんのおつきあいは5年に及ぶそうですね。 |

Haruhiko Ito
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Setsuo Matsushita
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| 伊藤: |
「5年程前の常滑焼組合のプロジェクトで、私が『新しい常滑焼を作ろう』と提案したのがきっかけです。新しい常滑焼というのは、コーヒーカップとか茶碗などの食器ではない何かだと思ってました。すると松下さんが『台所で使う陶器はどう?』ということになり、パンの焼き型を作ったのが最初です。」
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松下さんの会社(株式会社 久松)では通常はどんなものを生産されているんですか? |
| 松下: |
「陶器の漬物容器を作り続けて35年になります。以前は陶器の漬物容器を作っている会社はたくさんあったそうですが、プラスチック容器が普及するにつれ、ほとんどの会社が生産をやめてしまいました。つまり、多くの人は『陶器は重くて割れる』という理由で使わなくなってしまったんですね。」 |
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消費者が減少しているのにも関わらず、生産し続ける理由は? |
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松下:
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「私は陶器の“重い”“割れる”などの性質は、欠点ではなく特徴だと考えています。特に料理道具の本質は、“扱いやすさ”ではなく“美味しくできること”。漬物の場合、乳酸菌や酵母菌などの有用微生物をいかに増殖させるかが味の決め手となりますが、熱伝導率が低くて外気温の影響が少ない陶器は、そういった有用微生物を増殖しやすい環境を作ってくれます。だから陶器の容器で漬けると美味しいんですよ。」 |
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今回パンの焼き型を作ろうと思ったきっかけは? |
| 伊藤: |
「パンも漬物と同じ発酵食品だから、陶器の焼き型だと美味しいパンが焼けるんです。松下さんは奥さんと一緒にいろいろ試行錯誤しながら、何度もパンを焼いて、さらに全国の消費者の方にモニター協力をしてもらって、遂にこの焼き型を完成させた。この話を聞いた時は非常に感銘を受けましたよ。」 |

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一般的な金属の型と比べて、具体的にどんな点が良いのでしょうか? |
| 松下: |
「一般的な金属の型に比べて約150倍熱伝導率が低い陶器の型は、じっくりと最後まで発酵させることができ、未発酵による酵母臭が残りにくくなり、香りと釜伸びが良くなるというのが最大のメリットです。」 |
| 伊藤: |
「一見するとシンプルな焼き型ですが、作り手側から考えると食パン型が一番難しいそうですよ。」 |
| 松下: |
「そうなんです。例えば、焼き色を適度に付けるためには型の厚みは4mmぐらいが最適で、さらに型の抜き勾配を極端に小さくしなければなりませんでした。これは今までの製造方法では無理だと思われていました。でも実際に試してみると意外に上手くいったんです。」 |
| 伊藤: |
「焼き物の常識にとらわれず、まず『美味しくてきれいな焼き上がりにするためにはどうしたらいいのか?』、つまり使う側の理想を追求した結果がこの焼き型なんですよね。」 |
| 松下: |
「そうですね。私は作り手側の押しつけではなく、あくまでも“使える道具”を作ることを目的にしています。もともと私は歯科技工士をしていて、この焼き物の世界に入ったのは約10年前。妻の実家である現在の会社を継いだものですから、それほど焼き物の知識が深くない。だから今回のように非常識と言われる方法も『やってみなければわからない』と考えてしまうわけです。」 |
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伊藤:
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「でも逆に、松下さんのように先入観にとらわれない自由な発想がなければ“新しい常滑焼”は生まれてこないと思いますよ。」 |
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もう一つの新商品にそば打ち用のこね鉢がありますが、なぜ陶器で作ろうと考えられたのですか? |
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松下:
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「そば打の鉢と言えば木製が一般的ですが、それは昔からそばの産地が山里に多く、道具も木製が手っ取り早く作れるからということで普及したようなんです。」 |
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伊藤:
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「そうそう、どうしても木製でなければいけないという理由はどこにもない。」 |
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松下:
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「何人かのそば打ち名人に『良いそば打の鉢の条件は?』と尋ねてみたところ、『どっしりとした重量感』と言われました。というのは安定感があった方がこねやすいからなんです。これを聞いて私は『では陶器の欠点とされている“重い”は、そば打の鉢には最良の条件になる』と思ったのです。その後、そば打名人たちの意見を取り入れて、微妙な形状や重さを調整しながら製品化しました。」 |
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伊藤:
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「陶器の欠点を武器にするという逆転の発想が生み出したのがこの鉢。安定感はもちろん、表面にガラス状の釉薬を使っているのでくっつきにくいですし、おまけに手入れも簡単ですからね。そば打ちの初心者にもおすすめしたい。この鉢はまさに、使う側の立場に立った“使える道具”なんです。」 |
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では最後に今後の展望は? |
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松下:
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「厨房道具本来の使い勝手や、道具としての本質を考えると、陶器だからこそイイという部分がまだまだたくさんあると思います。先人の知恵が生み出した道具としての陶器の良さを再認識し、さらに現代風のアレンジを加えながら、“使える道具”のこだわりを持って商品開発に取り組んでいきたいと思います。」 |
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どうもありがとうございました。 |
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伊藤 晴彦(Haruhiko Ito):
1940年大阪府豊中市生まれ。40年間自動車関連の工業デザインを専門に手掛けた後、地場産業や地域おこしなどのアドバイスを積極的に行う。現在はデザインだけに留まらず、環境と福祉をテーマに様々な活動を行うと同時に、子供たちにカヌーやおもちゃづくりなどを通して“遊ぶこと”の大切さを伝えている。
愛知県技術指導員/ワールド絞りネットワーク副幹事長/(財)吉田町地域振興事業団アドバイザー/(協)愛知デザインユニオン理事/元橦木館店子代表 |
松下 節夫(Setsuo Matsushita):
1958年5月5日生まれ。1992年3月に歯科技工士を辞め、現在の(株)久松の代表取締役となる。創業54年の常滑焼職人の技に支えられて、忘れられつつある陶器の良さを再び伝えるべく、独自のこだわりを持って「使える厨房道具」の開発に取り組んでいる。 |